漫画の話をしましょうか

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坂本眞一「イノサン」-擬音と効果線無しで構成される特殊歴史耽美グロ漫画-

坂本眞一ヤンジャンで連載してた特殊歴史耽美グロマンガ。
18世紀フランスの処刑人を主人公とした特殊テーマの作品だが、「ベルサイユのばらのエログロバージョン」つうのが正解だと思う。
デッサンが正確で漫画家の中でも絵が突出して上手い。絵柄が緻密で丁寧で非常に美しい。華麗で耽美。

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あまりにも耽美すぎてヤンジャンで浮いてた。まあヤンジャンじゃなくても浮くだろうが。
浮いてる理由はもう1つあるが後述。
で、絵は耽美だが内容はひたすらグロい。処刑がテーマだからね。首吊りとか断首とか八つ裂きとか解剖とかいろいろ出てくるわけよ。グロ描写に容赦や遠慮がないので苦手な人はとことん苦手だろう。自分はわりとこの作者のグロ描写は平気。この作品はフルデジタルで作画されてるのだが、自分はデジタル処理されたグロ描写には生々しさをあまり感じないタチなのでたぶんメシ食いながらでもこのマンガ平気で読める。メシ食いながらマンガ読むと本が汚れるので実際はやりませんが。

時代背景の考証や描写も非常に正確。何がすごいって絵は美しいけど「汚くて臭いもの」が本当に汚く見えて、画面から臭気が漂ってくるところ。貧民窟とか本気で臭そう。腐敗臭がすんのな、絵から。

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あと宮廷とか貴族とかもすげー臭そう。香水と体臭(風呂に入らないから)と排泄物の臭いが同時に漂ってきそうな感じ。有名な話だけと当時は貴族も平民も排泄物たれ流しが基本なのでマリー・アントワネットも宮殿の庭園で野グソしてた。が、それを視覚的にきっちり描いたのはこのマンガがはじめてなのではないだろうか。いやーはじめて見ましたよマリー・アントワネットの野グソ場面。たぶん映画でもマンガでも今まで描かれたことはないはず。

 

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主要キャラは全員美形です。というか殆ど美形しか出てきません。
画力の高さから考えれば不細工も上手く描けるんだろうが、出てこないとこ見ると単に描きたくないんだろう。

 

あと特筆すべきは坂本眞一って擬音使わないんですよね。「ドカッ」とか「バシッ」とか一切出てこない。
あと効果線も一切使わない。集中線もベタフラッシュもまったくなし。
それと画面が枠内におさまっててタチキリいっぱいまで絵を描くということがまったく無いですね。
オノマトペと効果ゼロであそこまで描写できるってのは作者の画力がものすごく高いってことです。
(動きが描けない漫画家だと効果音がついてないとキャラが何の動きをしているのかまったくわからなかったりするので、一般の漫画家はいかに効果音というものにものすごく助けられているか。)

 


大変面白いマンガ作品です。
面白いっすけど、言っていいっすか。
ヤンジャンで浮いてたもう1つにして最大の理由。
ホモくさいです。

西原理恵子いわく「BL処刑人漫画」。
イノサン」は1巻1ホモと2ちゃんねるで揶揄されてたようですが、1巻1ホモどころじゃねーよこれ。そのものずばりなホモを除いても、全体的に漂う空気がホモくさい。

ゲイじゃないんだよ、ホモとか男色って感じ。
ゲイっていうと社会的やジェンダー的な要素も絡んでくるじゃん。カムアウトするかしないかとか、LGBTやゲイリブに関わるか関わらないかとか。単なる性嗜好や性自認のレベルじゃなく生き方や主義主張との関わりが出てくるじゃんゲイっていうと。
このマンガにはそういう社会的なのはなくて、ほんっと単なる性嗜好である男色として扱われてるので「ホモ」っていうのがふさわしいと思う。
差別的な言い回しで申し訳ないが差別的な意図はないのでご容赦を。
男女の絡みもばんばん出てくるのに、なんでこう漂う空気がホモくさいかというと無駄な色気を振りまいているのが男性キャラばかりだからだ。
女性キャラの裸体は美しいけど色気がない。
対して、男の裸体への強烈な執着。

通常、絵に現れるフェティシズムには作者自身の性嗜好が強く反映される。
巨乳フェチは巨乳を描くのがやたら上手くなるし、ロリコンは貧乳を描くのがやたら上手くなる。
脚フェチは脚を上手く描くことに執着するし、手フェチはものすごく手を魅力的に描写する。
で、ここまで男性裸体と男同士の絡みを美しく色気むんむんで熱心に描写してることを考え合わせると。
ええと。
この作者が既婚男性であるということが納得できないくらいホモくさいんですが。
坂本眞一って前からこんなホモだっけか?いつからこんなホモだっけ。
坂本眞一で「イノサン」以外だと「益荒王」とか「孤高の人」とかが有名…
「益荒王」ってマッスルな格闘マンガで、「イノサン」みたいな耽美モノじゃなかったんだが一体いつからこうなったんですか。
…いや、待て。
よく考えてみれば「益荒王」の時点で既におかしかったよ坂本先生は。
「益荒王」って主人公がチンコがでかすぎてパンツからこんにちわすることを悩んでヤンキーになり喧嘩にあけくれる話だった。
筋肉隆々な男たちがフンドシ1丁でもみあう話だよ。

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喧嘩モノが描きたいなら別にフンドシにこだわる必要はないのに、やたら筋肉とフンドシ描写に強い執着を見せる坂本先生。
…そうか
坂本テンテーは昔からウホッだったか…


ウホッの話はこっちに置いといても、
イノサン」は変だ。
途中までは変じゃなかったんだが、現在ものすごく変なことになっている。
4巻までは傑作で、5巻以降は珍作。
巻を重ねるごとにどんどんギャグマンガと化している。

主人公の主張がコロコロ変わったり(生涯童貞宣言してたのに一回やったらヤリチンに変貌したりとか、自分の代で家系断絶を目論んでいたはずなのにいつの間にか結婚して子供作ってたりとか)、主人公の妹(シリアルキラー)がモヒカン刈りになってたり、マリー・アントワネットの眉毛がとんでもない太さだったりすんのは序の口。
いちばん読者が振り落とされてるのは唐突なミュージカル展開です。
比喩や揶揄で「まるでミュージカルのようだ」と言われているのではなく、本気でミュージカル。しかもかなり深刻な場面でいきなり歌って踊り始める。

 

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これはひょっとしてギャグでやっているのか
いや。マジだろう。坂本先生は大真面目に真剣にやってるはず。
が、自分は笑いすぎて死ぬかと思った腹痛で。
ギャグマンガをあえてシリアスな絵柄で描くと破壊力が増すことがあるが、
シリアスなマンガをシリアスな絵柄で描いているのにこのギャグの破壊力はすごい。

 

職業:処刑人のシャルル・アンリ・サンソンが死刑反対論者だったというのは史実らしい。
そしてシャルル自身は王党派だったのにルイ16世の処刑を行うことになるというのも史実。

世襲だから本人の意思がどうであろうと処刑人にならなきゃいけなかったんだよね。そこが辛い。

(日本にも江戸時代に山田浅右衛門という処刑人一族がいて、当主は代々この名前を継いだというが、こっちは世襲じゃなかった。)


原典は安達正勝『死刑執行人サンソン』(集英社新書)なので(原作ではない。あくまでも出典)なので、史実的に大きな逸脱はない。
ただし小さな逸脱はかなりある。代表的なのは主人公の妹、マリー・ジョセフ・サンソンの存在。
史実上は系図に名前があるだけの存在なのだが、坂本眞一は彼女を男装の麗人サイコパスの女処刑人として描いている。
これが凄くて、マリーの活躍が増えすぎて今はもう兄シャルルから妹マリーへ、ほとんど主役交代している状態である。
このマリーがなあ。作者がものすごく贔屓して描いてることがすごく伝わってくるんだよなあ。
作者からのマリーへの賛美がすごいんだよ。最初はそこが苦手だったのだが、だんだん平気になってきました。
ていうより、8巻あたりからすっかりマリーが好きになってしまいました。
マリーってベルばらでいうとオスカルのポジションなんだよね。マリーアントワネットとデキてた(イノサンではマジでレズ関係)こともあったが、今後はフランス革命の流れに身を投じていくはず。
兄シャルルは史実通りに動かさざるを得ないけどマリーは坂本眞一オリジナルキャラなのでかなり自由に動かせる。これ重要。


マリーは運命や因習や制度や常識に逆らって生きてる。
「女は結婚しなければならない」という事態に直面したマリーが取った手段が、太りすぎて(おそらく300kg以上ある)ベッドから動けなくなってる従兄と形式上の結婚をすること。
こいつらの結婚生活

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18世紀に女性が「何にも縛られず自由に生きる」ということはめちゃくちゃ大変なことなんである。だって現代でも大変なんだからさー。
だからマリーの描かれ方ってフェミニズムとも大きな関係があるんだよ。実際、フェミ的にきつい描写多いし。
マリーは18世紀フランスという舞台設定にもかかわらず刈り上げ(ていうかモヒカン)ヘアなのだが、私はこれは「マリーはパンクな存在だから」と解釈した。

 

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ホモだのミュージカルだのを除いても、非常に面白いテーマを扱っている作品なので、このままなんとかフランス革命から恐怖政治による処刑祭りまで連載が続いて欲しい。
ここまで緻密に手を抜かずに絵を描く漫画家は大概遅筆になるものだが、坂本眞一は絵柄のわりには筆が速いらしく今のところ長期間の休載はしていない模様。
それと、ここまで緻密に絵を描き込むと大概作品の展開が遅くなり「作者が生きてるうちに完結するのか?(代表例:ベルセルク)」という状況になるが、「イノサン」は今のところそれもなく、大変展開が早い。見開き大ゴマが多くて文字も少ないのになぜ展開が早いかというと頻繁にタイムリープを行ってるからだ。ものすごーーーくしつこく時間をかけてある場面を執拗に描いていたかと思うとそのすぐ後に2年後や5年後に時間が飛んでる。
このままのスピードで行けば時々ミュージカルに脱線したとしても数年後にはフランス革命→恐怖政治で処刑祭りまで行くんじゃないかと思うので、とにかくそれまで連載続いてくれ。
問題は多々あるものの、本当に面白いから。
グロいんで読み手を選ぶ作品ですがね。
ちなみに「イノサン」は9巻で完結、続編は「イノサン Rouge」としてグランドジャンプで現在も連載中です。