岩本ナオ「雨無村役場産業課兼観光係」-地縁と血縁でガチガチに結びついた地域共同体の“若者の青春”-
女豹様のおかげでアクセス数伸びたので、10年前に書いた記事のストックをアップしてます。
なんで10年前かっていうと、ここ数年ド貧乏で漫画買う金がなくて今何も書けないから。
10年前にmixi等に書いた文章に加筆修正したものなので情報が古い事を念頭に置いて読んでください、よろしくお願いします。
全3巻。
村おこし少女漫画。
少女漫画のキモは恋愛と胸キュンに集約されるので、「地域活性化」や「村おこし」が少女漫画のモチーフにされること自体、非常に珍しい。
にもかかわらず、きちんと「少女漫画」の枠におさまっているところが凄い。
恋愛・友情・胸キュンと、地域活性化・村おこし・高齢化社会・限界集落の見事なコラボ。本来なら暗くなるはずのテーマも、このひとの作風だとほんのり和む。甘酸っぱくてせつない。「若者の先が見えなさ加減」までちゃんと描いているのになあ。
不思議な漫画。
絵柄が独特。既成作家の誰にも似てない。デフォルメと抽象化がとても上手いひと。老若男女、登場するすべてのキャラクター全員を見事に描き分けている。顔が似ているひとは血縁関係のあるキャラだけ。
村のオバチャンや役場のオッサンの服装や行動パターンもリアル。
イナカの行動半径の狭さ、地縁と血縁でガチガチに結びついた地域共同体の描写がこれまたリアル。イナカ出身者としては身に覚えがあることばっか。
すげーと思ったのはヒロインが少女漫画にあるまじき小デブなこと。これがまた非常にリアルな小デブっぷりで、小デブなのに妙に可愛い。嫁に欲しいぐらい可愛い。
さて。
私は本当に本当に地縁と血縁でガチガチに結びついた地域共同体ってやつが苦手で。なんで苦手かっていうと、その「地域共同体を形成する価値観」ってものから外れた人間に、イナカはとことん冷たいからです。異端が異端のままでいることを許してくれない。この作品の場合だと、「23,4で結婚しないと“売れ残り”」「結婚してコドモを作って家を継いでアタリマエ」ってやつですね。このルートから外れた生き方するとイナカでは立つ瀬がないのよ。
人間関係が濃密で人の出入りが少ないから、過去の因習やら怨念やらシガラミやら背負い込んだままで生きていくことを余儀なくされるところも苦手。
住民全員が顔見知りで、プライバシーのかけらもないところもヤダ。この漫画でも(くらもちふさこの「天然コケッコー」でもそうでしたが)、「誰の身に何が起こったか」は、またたくまに村民全員の知るところとなり、娯楽となって話のネタとして語り継がれていくあたりが、もう、ホント、だめ。
都会には都会のマイナス面もあるわけだけど、自意識過剰なネガティブ人間や、価値観やセクシャリティがマイノリティに属する人間には都会の方がずっと住みやすいと思いますね。
というわけでイナカ社会をネタにした作品は、描き手がよっぽど優れていないと読みたいと思いません。イナカ出身者として身につまされてしんどくなるからです。
それと、「イナカの地域共同体を形成する価値観から排除されたマイノリティ」という立場のキャラが居てくれないと感情移入ができません。
くらもちふさこ「天然コケッコー」では都会から来た転入生・大沢がずっと「異端者・傍観者」のままのスタンスだったので、大沢視点で読んでました。
この作品ではロンゲのイケメン「スミオくん」がそれにあたります。
スミオは超絶イケメンですが、基本のほほんとした天然系なごみキャラ。やさしくていい子。にもかかわらずイナカでは異端者なんですね。つーのはセクシャリティがゲイだから。
どんなにモテても女の子には興味がもてず、幼馴染の「銀ちゃん(主人公・男)」に片思い。
この作品は編集さんから「BL要素を入れろ」と言われて、作者がBL要素を入れてみたんだそうで。
「友情と恋愛は成り立つか」というのは実はBLの永遠の命題でもあります。いや、「摩利と新吾」以来えんえんと続く少女漫画の命題でもありますが。幼馴染や親友に恋するというのは、もうホンットーにBLではよくあるパターン。BLでは大概その恋は成就します。だって、BLだから。しかしこの作品はあくまでも少女漫画。だからスミオの恋は成就しないのですが、銀ちゃんとの「友情」は続きます。
みんながそれぞれ成長して、自分が出来ることを精一杯頑張っている。その姿に胸を打たれました。
私は「都会は冷たい」と同じぐらい「イナカは温かい」が嫌いです。わたしも都会人の「必要以上に干渉しないという思いやり」が好きなので、一生イナカには帰らないでしょう。
でもこの漫画は良かったです。決してイナカを美化して描いてないのに「イナカもいいかな」とわたしのような人間でさえついうっかり思わされてしまう。
イナカ嫌いの私をして、「こんなイナカがあったら帰りたい」とさえ思わせた漫画。
いい漫画でした。